HiMA RACiNGにとって特別な日となる3月2日に「IMSA Michelin Pilot Challenge」シーズン1の最終戦が行われた。
舞台となったのはアメリカはカリフォルニア州に位置するロングビーチ市街地コース。「西海岸のモナコ」と言われるように、過去にはF1が開催されていたり、現在ではインディカー・シリーズやIMSA ウェザーテック・スポーツカー選手権などが行われているコースだ。
Pista × HiMA RACiNGのしーなありさはこの市街地コースを攻略することが出来たのか。日本時間13:00に行われたレースの模様を見てみよう。
予選:7位 気温 20℃/路面温度 31℃
予選は2ラップのアタックで行われる。
市街地コースとしてはコース幅が広いロングビーチ市街地コースではあるが、タイムを出そうと思えばコンクリートウォールに当たるギリギリを攻めなければならない。Pista × HiMA RACiNG Vantage GT4のアタックは1周目に記録した1:24.353で4番手タイムを記録したが、2周目のターン8以降の後半セクションでリズムが崩れ1:24.391と伸ばしきれず。結果はGT4クラス17台中7番手で予選を終えた。
決勝:5位 気温 20℃/路面温度 30℃
スタートは2列の隊列のローリングスタート。しかし今回は最終ターン11が狭いヘアピンということもあって1列でレースがスタートした。
7番手からのスタートとなったPista × HiMA RACiNG Vantage GT4だったが、ヘアピン進入での位置関係で1つ順位を落とし8番手に。前に出た12号車Vantage GT4は加速が鈍り、6番手の16号車Cayman GT4に2秒離されてしまった。
ただレース自体は大きな事故もなく慎重なレース展開となった。
7番手争いとなったPista × HiMA RACiNG Vantage GT4は前に7番手12号車Vantage GT4、後ろに順位を上げてきた9番手6号車AMG GT4の3台の集団で周回を続ける。前後とも0.5秒から1秒の間隔で付かず離れずの膠着状態だが、前後の車両は度々壁にヒットする場面が見受けられ落ち着かない様子が見て取れた。壁へのヒットはこの集団以外にも見られ、壁にぶつけてしまった車両がタイムを落として7番手争いに接近することもあった。
その中で7周目に5番手を走行中だった車両がバックストレート前のターン8のイン側のウォールにヒット。その反動でアウト側のウォールにもぶつけてしまいフロントセクションにダメージを負いピットに入る。これによって3台の争いは6番手争いに変わった。
Pista × HiMA RACiNG Vantage GT4は決してペースは良いものではなかったが、後ろの6号車AMG GT4がプッシュする代償に壁にヒットすることがあったことと、こちらが壁に当たらないようにマージンを持って走っていたこともあり、8番手の順位は守ることが出来ていた。ただ前を行く12号車Vantage GT4に対しては少しずつ差をつけられる展開となった。
TCRクラスの車両が前に出てくるタイミングとなった13周目の最終コーナーで、前を行く12号車Vantage GT4がTCRクラスの車両に引っ掛かってしまう。Pista × HiMA RACiNG Vantage GT4から見たときに前方車両が急停止したように見え、これに合わせて減速した。しかし後方から来ていた6号車AMG GT4はこれに対応できず、Pista × HiMA RACiNG Vantage GT4の左リアに右フロントをぶつけてしまう。だが低速域であったことが幸いして走行に影響を及ぼすような大きなダメージとはならなかった。
しかしこれによって12号車Vantage GT4との差が1秒以上ついてしまい、さらにその先のターン1でTCRクラスを上手くパスすることが出来ずこの差はより広がってしまった。
真後ろまで接近した6号車AMG GT4に襲われるPista × HiMA RACiNG Vantage GT4だったが、市街地コースで抜きどころが少ないことと直線スピードが速いこと、TCRクラスを争いの間に挟みながら7番手を守っていた。
しかし18周目にPista × HiMA RACiNG Vantage GT4がTCRクラスの車両に引っ掛かってしまう。出会った場所も悪くバックストレートに繋がるターン7でオーバーテイクにかかったが抜き切れず、そのままターン8でも並んだ状態が続きアウト側からの進入を強いられ加速が鈍る。その隙に6号車AMG GT4がイン側からトラクションをかけてバックストレートでサイド・バイ・サイドに持ち込まれ、ストレートエンドのターン9で6号車AMG GT4に先行を許してしまった。
前に出た6号車AMG GT4に対して19周目時点で1.3秒ほど離されてしまったが、6号車AMG GT4はプッシュを続ける中で壁へのヒット数も増えタイムを失っていた。一度抜かれてペースが落ちてしまったPista × HiMA RACiNG Vantage GT4だったが、20周目にはペースを戻すことができ1秒以内に収まる位置に再びつける。
後ろからプレッシャーをかけ抜き返すチャンスを伺っていたが、この勝負は長くは続かなかった。
23周目のターン1にて6号車AMG GT4がTCRクラスをパスするためにブレーキを遅らせたところ止まり切ることが出来ず、そのままタイヤバリアへと真っすぐ突っ込んだ。これで7番手を返り咲いたPista × HiMA RACiNG Vantage GT4は6番手を追いかけるためペースを上げ始めた。
24周目時点で前を行く12号車Vantage GT4との差は4.3秒離れていた。前が開けプッシュを始めたPista × HiMA RACiNG Vantage GT4と12号車Vantage GT4とのタイム差はほぼ互角で簡単に詰まるような展開とはならなかった。
それに加えてPista × HiMA RACiNG Vantage GT4はマシンにも非常に苦しんでいた。今回のロングビーチに持ち込んだセットアップがまたしても良くなく、レースが始まってからフロントのフィーリングが悪く思ったようなグリップが得られていなかったのだ。タイムは周りと比べて遅いわけではないが、燃料が軽くなっても改善されることはなく厳しい時間を過ごすこととなった。
だがそんな中でもレースは動く。32周目の最終コーナーの出口で12号車Vantage GT4がイン側の壁にリアをヒットしバランスを崩して失速。ここまでで4秒から3秒まで詰めてきたPista × HiMA RACiNG Vantage GT4との差はこのミスで2.2秒まで縮まる。
しかしその後36周目のターン1でブレーキタイミングが遅れ大幅なタイムロスに。これでまた前方との差は3秒に戻ってしまう。
差が戻ってからは大きな動きもなくPista × HiMA RACiNG Vantage GT4は周りのライバルよりも1周早い39周目にピットに入った。
46秒のピットストップを終えてコースに復帰し、再び前との差を詰めるために新しいタイヤでプッシュし始めたが、アウトラップのターン5で8号車Cayman GT4がスピンからPista × HiMA RACiNG Vantage GT4のコンマ7秒前で復帰した。前の車両はこちらよりも1周早い38周目にピットを終えていた車両であるため順位争いが勃発。さらに先ほどまで後方を走っていた6号車AMG GT4がオーバーカットに成功し、順位争いを始めた2台の前でコースに戻ってきた。コース上で2台を抜く必要に迫られたが、幸い差は小さく相手の隙を突ける位置からレースを進めようとした。
しかしこの周のターン5で周回遅れだったGT4クラスの車両がコースの真ん中でストップしていた。これを回避するのに減速した結果、前2台と1秒離されこちらに不利な状況になってしまった。
この間に前の状況も変わり集団のトップは8号車Cayman GT4、それに6号車AMG GT4が続き、1秒後方にPista × HiMA RACiNG Vantage GT4という順番となった。
だがこの後もアクシデントは続く。次は42周目のターン1でピット前まで前を走っていた12号車Vantage GT4が曲がり切れずタイヤバリアに吸い込まれた。その直後、同じくターン1で前を行く6号車AMG GT4とTCRクラスの車両が接触。弾かれたTCR車両がタイヤバリアにぶつかる。さらにその反動でコースの真ん中に帰ってきてしまった。Pista × HiMA RACiNG Vantage GT4は目の前に飛び出してきたTCR車両に対して減速を行い接触は免れたが、TCR車両は大きなダメージを負っているにも関わらず、こちらに蓋をするような形で走行を続けてしまった。これにより前方の6号車AMG GT4との差は3.5秒まで広がってしまい大幅なロスとなった。
しかしまだアクシデントは終わらない。同じ周回のターン8出口でピットアウト直後の2号車AMG GT4がスピンによって走行ライン上でストップ。先ほどとまではいかないがここでもタイムを失い、6号車AMG GT4は遥か彼方に行ってしまった。
これによって後ろから来る12号車Vantage GT4と7番手争いをすることになったPista × HiMA RACiNG Vantage GT4だったが、43周目にまたしてもターン8でスピンが発生。今度は5位を走行中だった8号車Cayman GT4がこのターン8の餌食となった。これで1つポジションが上がり6番手に浮上する。
そしてさらに44周目。次は前を行く6号車AMG GT4にもアクシデントが発生。これもまたターン8でスピンを起こしてアウト側のタイヤバリアに激しくヒットしてしまい、左リアに大きなダメージを負うこととなる。この影響でPista × HiMA RACiNG Vantage GT4とあった3秒の差は0.5秒まで接近する。
図らずもチャンスを手にしたPista × HiMA RACiNG Vantage GT4はこれをものにするべくマシンに鞭を入れていく。
そして訪れた46周目のターン9で6号車AMG GT4がダメージの影響からか曲がり切ることが出来ずオーバーラン。これでPista × HiMA RACiNG Vantage GT4が4番手に順位を上げた。
順位を上げた5周後となる51周目のターン1にてPista × HiMA RACiNG Vantage GT4がカットペナルティーで後退し、5番手に順位を落とした。
市街地コースでは通常は壁に囲まれているコースなのでショートカットが出来るような場所はほとんどない。さらに言うならロングビーチのターン1はショートカットなど出来ないコーナーである。それなのに何故カットペナルティーが出たのか。
答えはロングビーチの特有のルールだ。
ターン1は直角に近い左コーナーでこのコーナーは特に変哲もないものだが、問題はコーナー進入時のアウト側だ。アウト側にはピット出口がありホワイトラインがストレートからターン1入口まで伸びている。通常のコースであればレーシングスピードで走る車両はこのホワイトラインを跨いでも特に問題はないのだが、ロングビーチにおいてはホワイトラインを跨いでしまうとペナルティーが取られてしまう。
今回Pista × HiMA RACiNG Vantage GT4はこのホワイトラインを跨いでしまったことにより1.4秒の減速をしなければならず、ターン5出口で順位を落とす形となったのだ。
12号車Vantage GT4が前に出てからは1秒前後の差でレースが展開されていく。その中で3番手を走行中の16号車Cayman GT4がペースダウンしたことで1周毎に4番手集団が1秒ずつ差を縮めていく。
3番手を追いかけていく中で迎えた62周目にこちらとの差を2秒まで離していた12号車Vantage GT4が最終コーナー出口でスピン。進路を塞ぐものではなかったため、これでPista × HiMA RACiNG Vantage GT4が4番手に順位を戻す。
順位を戻すことは出来たが、後ろには5番手に順位を上げてきた8号車Cayman GT4が0.5秒差まで詰めてきており、油断の出来ない状態になっていた。しかしこちらも前を行く16号車Cayman GT4に1秒まで迫る。
前後に居るCayman GT4に対して、パワーに優れるVantage GT4は直線での加速と伸びで後ろのアタックに耐えながら前を追う。反対にコーナーではCayman GT4にアドバンテージがあるため、先に抜くのか抜かれるのか際どい状態が続いた。
この状態の中、先に動いたのはPista × HiMA RACiNG Vantage GT4だった。
66周目の最終コーナーでしっかりとトラクションをかけて立ち上がり直線スピードを伸ばしていき、67周目になったターン1で並びかけオーバーテイクを決め3番手に躍り出る。
続く69周目に後ろの8号車Cayman GT4が16号車Cayman GT4を抜き4番手に上がった。しかしその後はなかなかペースを上げることが出来ずPista × HiMA RACiNG Vantage GT4に追いつくことは出来ず75周目にピットインしたが、アンダーカットの可能性もあり気を緩めることはできない。
こちらはその2周後となる77周目に最後のピットに向かった。
最後のピットは完走に必要な最小限の燃料補給だけを行う「スプラッシュ&ゴー」で作業を済ませてピットアウト。
問題の8号車Cayman GT4との位置関係はこちらが3.5秒前に出ることに成功し順位を守ったが、1ストップ作戦に出た13号車AMG GT4がPista × HiMA RACiNG Vantage GT4の前に現れた。レース時間が残り10分もない中で4秒先に現れた伏兵に焦りが来る。幸い13号車AMG GT4は1ストップということもあって燃費走行を強いられており、ラップタイムでは0.5秒遅い。
だがそこにまたしても予期せぬ事態が起きる。先ほどまでPista × HiMA RACiNG Vantage GT4の後方にいたはずの16号車Cayman GT4がピットアウト。こちらの前方1秒に帰って来たのだ。ピット前までの遅いペースは燃費走行のためでオーバーカットを狙ってのことだった。
残り5分を切ったところで窮地に立たされることになったPista × HiMA RACiNG Vantage GT4は順位を取り戻すためにプッシュを続けるが、ここでセットアップが上手くいっていないことの弊害が現れ始め思うようにタイムが上がってこない。必死に喰らいついていこうとするが、前を行く16号車Cayman GT4に対して0.3秒ずつラップタイムが足りていない状態で差は縮まるどころか広がっていく一方。
追いつくことが出来ないままホワイトフラッグが振られファイナルラップへ。16号車Cayman GT4に対して1秒の差があるが諦めずにプッシュを続ける。その中で16号車Cayman GT4が4番手を行く13号車AMG GT4を捉えて順位が入れ替わる。これによって1つ順位を上げるチャンスが巡ってきたPista × HiMA RACiNG Vantage GT4はターン9でインを差し5番手に浮上。
そしてそのまま順位を守りGT4クラス17台中5位でレースを終えた。
これにて2024シーズン1の「IMSA Michelin Pilot Challenge」は終了し、Pista × HiMA RACiNGはGT4クラスの世界ランキングで1894人中28位、日本ランキングは18人中2位でシーズンを終えた。
6戦中の最後の3戦からの参戦で結果が出たのは良いことだったが、次のシーズンに向けて大きな課題が残るシーズンとなった。マシンへの理解を深めセットアップの方向性を明確にすることで今シーズンを超える結果が狙えるだろう。
しーなありさ
今回のレースは非常に難しいものとなりました。
前戦のブダペストでの学びからマシンセットアップのアプローチを大きく変えましたが、結果としては良い方向のものではありませんでした。全体的にフロントのグリップを感じにくく、限界も低い車になってしまいました。
ペースが周りと比べても絶望的に遅かったわけではなかったのが救いではありますが、それが悩みの種でもあります。
来シーズンに向けては今シーズンのデータを基に根本的な解決を目指してマシンへの理解度を上げていき、より良い内容のレースが出来るように作業していきます。
今シーズン応援いただきありがとうございました。
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